セルゲイ・ロズニツァ 映画鑑賞 at 第七藝術劇場
昨日は、カンヌ映画祭で二冠、近作10作品全てが世界三大映画祭にノミネートされている、セルゲイ・ロズニツァ監督の映画を観てきました。ドキュメンタリー映画の鬼才とされている監督ですが、今回が日本初公開で、3作品がやってきたものの、映画館の上映構成で、昨日は2作品しか観ることができませんでした。娯楽映画ではないので、映画としての感動はないものの、鑑賞者に人間社会を熟慮させる監督の意向が感じ取れました。
「アウステルリッツ」
2016年の映画ですが、舞台は、第二次世界大戦中にホロコーストで多くのユダヤ人が虐殺された元強制収用所です。その場所に、ガイド付きで多くのツーリストが訪れ、ほとんどの訪問者が観光地を訪れるがごとく振舞っている様子がナレーションなしで映されています。映画の中では、ツアーガイドがスペイン語や英語(アメリカ英語)で説明しているので、それらを母国語としている人達が、たまたまドキュメンタリー映画の材料になったのでしょうが、戦後75年経過した今、世界中の人間がいかに能天気な生活を送っているのかを訴えているようです。
「国葬」
1953年3月5日にソビエトのスターリンが亡くなり、世界最大の国葬が執り行われた様子がドキュメンタリーとして映画化されたものです。その国葬を捉えた大量のアーカイブ・フィルムを繋ぎ合わせた作品ですが、迫力のある映像が迫ってきます。東欧諸国の弔問客、当時中国首相だった周恩来、後にソ連書記になったフルシチョフ等がその中に映っています。数千万人という国民を粛清したり餓死させたリーダーの死に涙を流す多くの国民、その場面を観て、映画鑑賞者は政治の恐ろしさを考えさせられます。戦争が終わるまでの日本もソビエト同様に、多くの国民が政治により苦しめられましたし、これから先も何が起こるかが分かりません。このスターリンの葬儀後、遺体はレーニン廟に安置されますが、後に彼の失策が非難され、1961年にはレーニン廟から排除されました。
ロズニツァの作品は、単に観せるドキュメンタリーではなく、人間という存在を考えさせるためのもののようです。
新型コロナ・ウィルスの脅威が益々大きくなり、どうぞご覧下さいとは言えないことは残念です。私自身も、本当は先週観たかったのですが、祝日は人が多いのではないかと思って昨日に変更したわけです。